このサイトの
の項で
〈 minolta auto wide 〉
には
巻き戻しボタンが無い製品と有る製品
とが
製造されている事を紹介しています
巻き戻しバリエーション の項では、そのはじめに巻き戻しボタンの有無によって異なる操作方法について紹介しました。
そしてその次には、それぞれのタイプの製品には巻き戻しクランクのヒンジ部分に形状の違いがあり、操作する際のレバーの角度とレバーの板厚が異なっている事を紹介しています。
この2つのタイプのうち、巻き戻しボタンの無い製品が小さい製造番号に集まっている事から、単純に巻き戻しボタンの無い製品が初期タイプだとする事も出来ます。
ただし、巻き戻しボタンの有る製品がその番号の間に混在していますので「 殆んどは初期のもの 」とするのがよさそうです。
製造番号が大きくなると巻き戻しボタンが無いタイプの製品は見掛けません。
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はじめに紹介した巻き戻しボタンの有無による操作方法の違いは、一方は『 レバーを起こすと同時に巻き戻しが可能になる仕様 』です。
もう一方は『 巻き戻しボタンを押すと同時に巻き戻しクランクのレバーがポップアップして、巻き戻しが可能になる仕様 』です。
巻き戻しボタンが無いタイプの製品巻き戻しボタンが有るタイプの製品
どちらも合理的な仕組みとして成立しているように見えますが、商品のバリエーションとして、この部分の仕様が異なる製品を同時に展開する事は考え難いものです。
どちらかの仕様からもう一方の仕様へと、途中から生産が切り替えられたとするのが自然です。
そうだとすると、当初はレバーを起こすと同時にフィルム送りが解除される仕様として製造されていたものが、巻き戻しボタンを押してフィルム送りの解除とレバーのポップアップを同時に行う仕様へと、後に変更されたのではないかという推測ができます。
生産途中に仕様の変更が行われたのだとして、部品数と製造工程が増す事になる巻き戻しボタンを設ける変更が、効率化といった製造上の理由であるはずもなく、その意図は改良を主体としたものであったと考えられます。
しかしそれでも、この仕様変更による操作方法の違いには、そのどちらかが明確に有利だという事はないように思います。
次に紹介した、巻き戻しクランクのレバーを操作する角度とレバーの板厚を含むヒンジの形状に見られる巻き戻しクランクの違いは、操作感への影響はあっても機能の面では同じものです。
円錐形の部品が取付けられていて板状のレバーに厚みのある『 ヒンジの凸起が立体的なタイプ 』のほうが『 ヒンジの凸起が平面的なタイプ 』よりも「 造り込まれている 」という印象を受けます。
ただし、操作感はあくまでも感覚的なものですので、巻き戻しボタンの有無による操作方法の違い以上に主観を交えずに比較する事の難しい違いです。
ヒンジの凸起が平面的なタイプヒンジの凸起が立体的なタイプ
巻き戻しクランクは、巻き戻しボタンの有無によって、その付いているタイプが異なっています。
巻き戻しボタンの有無による製造番号の傾向に見られる通りに、巻き戻しボタンが無い製品から有る製品へと仕様が変更されたのだとすれば、巻き戻しボタンを押してポップアップする巻き戻しクランクのレバーが、製造を切り替えたタイミングで見直されたのかも知れません。
レバーの板厚が増された事によって、ヒンジ周りの部品に造作変更が必要になっている事から、巻き戻しクランクへの変更は主にレバーを厚くする事を意図したものだと考えてよいと思います。
このときにレバーの操作角度と可動部分のあそびも同時に見直されたのかも知れません。
水平に近かった巻き戻しクランクのレバーは操作角度が高くなって回転させやすくなり、部品にあそびが出来た事で操作がスムーズになっている感覚があります。
また、レバーが厚くなったタイプの操作に慣れていると、薄いタイプの板厚がすこし心許なく感じられます。
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デザインを客観的に観察して比較する事は操作感の比較にも増して難しい事です。
主観として、デザインの面からは〝 当初は巻き戻しボタンが無い製品 〟として製造されたのではないか、という印象を持ちます。
巻き戻しボタンが無い製品の底部巻き戻しボタンが有る製品の底部
三脚取付け穴の縁のキワに設けられている巻き戻しボタンの位置は、内部の構造がそのまま延長されているものです。
巻き戻しボタン自体も円柱形の小さな出っ張りにすぎませんが、これは他の製品と比べて目立って簡素だという事はありません。
それでも全体の中ではとって付けたような印象があり、デザイン面での工夫は感じられないように思います。
〈 minolta auto wide 〉は、当時の《 千代田工学精工 株式会社 》が初めて外部とデザイン契約をして製造したカメラで、広角レンズを搭載したスナップカメラとしての性格を持ち、内臓露出計と連動する初めての仕組みを備えた製品です。
デザインを手掛けたデザイングループの《 KAK 》は、その企画の段階から携わったといいます。
開発された製品は、ベースにある〈 Minolta A. 〉のスタイルを踏襲していながらも、それまでにない操作方法の製品ならではの工夫が盛り込まれた、独創的な部分を多く持ったカメラです。
その中にあって、巻き戻しボタンとその操作部分からは、デザイン的なアプローチを見いだすのは難しいように思います。
このように考えたとき、巻き戻しボタンを備えた製品としてはデザインされていないという印象を受けます。
巻き戻しボタンの有無は、巻き戻しの操作の他に 『 多重露光撮影 』 の操作にも影響が及んでいます。
多重露光撮影では、シャッターチャージとフィルム送りの連動を解除しますが、この操作は巻き戻しボタンを使う方が有利です。
巻き戻しクランクのレバーに直接触れて行う連動解除の操作では、フィルムが動いてしまうリスクがあります。
ただし、この点に関してはスナップカメラとしての性格を考えると、製造を切り替えてまで行う仕様変更の直接的な理由にはなり得ない様に思います。
発売時の広告に
― 押しボタンの無い完全自動式捲戻クランク ―
の記述と共に
巻き戻しボタンの無い製品の底部の画像
があります
発売時には、巻き戻しボタンを持たない大型のクランクを使って行う巻き戻し操作を、「 スナップシューター 」としての性格に整合する機能の一つとして、最大の“売り”である内蔵露出計と連動するシャッター操作と、ゾーンマークによる焦点合わせと共に、アピールしていた事が判ります。
巻き戻しボタンが後に設けられた事が事実だとして、内部の構造が同じで操作方法の異なる2つのタイプの製品は、どちらの仕様も開発の段階で検討されていたのかも知れません。
何らかの理由で採用されなかった仕様に、生産途中で切り替えたという事はありそうです。
あるいはそうではなく、発売された後に見出されたアイデアを採り入れて、巻き戻しボタンのある製品にしたという事もまた十分にありえる事です。
ここまでに紹介している巻き戻しクランクの造作に見られるいくつかの違いは、巻き戻しボタンを備えた製品が、改良による仕様変更によって製造された事を示唆しています。
しかし、巻き戻しボタンが無いタイプと有るタイプの製品とを手にとってみると、この2つのタイプが操作方法として優劣のあるものでは無い事をあらためて実感します。
『 巻き戻しボタンが無いタイプの製品 』は、スナップカメラとしての性格にマッチした操作方法が、デザイン的にも完結している印象を与えます。
『 巻き戻しボタンが有るタイプの製品 』は、ポップアップする巻き戻しクランクの細部までが造り込まれ、製品として完成されている印象です。
生産途中での仕様変更にどの様な意図や背景があったのだとしても、それが「 改良を意図したものであって欲しい 」という想いを抱きます。
〈 minolta auto wide 〉をデザインした《 KAK : カック 》は、『 秋岡 芳夫 、金子 至 、河 潤之助 』( 敬称略 、50音順 )によって工業デザインを志向して立ち上げられたデザイングループで、3氏は共にカメラ好きで写真術に精通していたといいます。
〈 SEKONIC : セコニック 〉ブランドで露出計を製造する《 成光電気工業 株式会社 》での仕事が評価されていた《 KAK 》は 、同社での仕事がきっかけとなり《 千代田光学精工 株式会社 》との直接契約の下で 〈 minolta auto wide 〉の製品デザインを手掛ける事になります。
もう少し詳しい背景を
– コラム –
の項で巻紹介しています
《 KAK 》では〈 minolta auto wide 〉のデザインを『 秋岡 芳夫 』氏が担当して、頻繁に《 KAK 》を訪ねる開発エンジニアとの間でアイデアや意見の交換が重ねられたといいます。
小さな巻き戻しボタン一つが変える操作手順によって、〈 minolta auto wide 〉というカメラが製品として違う印象になっている事は興味深く、ここに紹介している仕様変更がどのような背景と意図によって行われたのか、そこに《 千代田光学精工 株式会社 》とその『 エンジニア 』、そして《 KAK 》の『 秋岡 芳夫 』氏とメンバーとがどのように関わり、そして関わらなかったのか、想像の尽きるところではありません。
巻き戻し操作が異なる2つのタイプの〈 minolta auto wide 〉は、製品としてカタチになった2つのアイデアとして、そのどちらをも手にとる事が出来る後年に、開発当時の様子を伝えているかのようです。
オートワイド12
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