〈 minolta V2 〉は1958年に当時の《 千代田光学精工 株式会社 》が製造した35㎜判のレンズシャッター式スチルカメラです。
それまで《 千代田光学精工 株式会社 》が35㎜判レンズシャッター機のシリーズとしてラインナップしていた〈 Minolta ・A・ 〉系統の機種とは大きく異なった製品になっています。
発売月の記録には、〝 4月 〟となっているものと〝 9月 〟としているものとがあります。
- 後年カメラ事業から撤退した同社のアフターサービスを継承した事業者が公開するアーカイブでは 4月の発売となっています。
- 1970年代の《 ミノルタカメラ 株式会社 》による50周年記念冊子では 9月発売とされていますが、各年代の事業内容を包括的に記述した中にあるもので、全機種を網羅して発売の前後までを明らかにしているものにはなっていません。
1958年の当時に発行された雑誌には、少なくとも国内での流通は9月以降になっていた事が窺える内容の記事や、掲載広告があります。
1958年発売
〈 minolta V2 〉
パララックス自動補正機能付きのブライトフレーム式レンジファインダーを搭載し、撮影レンズには5群6枚構成、焦点距離45㎜、口径比1:2の『 ROKKOR – PF 1:2 f= 45㎜ 』が新規に導入されています。
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〈 minolta V2 〉のスペックで特筆されるのは、最高速度 1/2000 ( 秒 )のシャッタースピードを実現している点で、発売時にはレンズシャッター機として世界初の性能である事が宣伝されています。
それを高級機とせずに、このサイトで紹介している〈 minolta auto wide 〉と同様にアメリカ市場を意識した大衆機として企画されています。
アメリカ市場への進出を目指した《 千代田光学精工 株式会社 》は、1954年に駐在員を派遣しています。
現地の販売代理店を通した販路拡大の試みと、駐在員からのフィードバックによる製品開発とが進められました。
1959年には、販売子会社の『 Minolta Corporation : ミノルタ コーポレーション 』が設立され、ニューヨークにそのオフィスが構えられました。
このような背景のなかで開発された〈 minolta V2 〉は、〈 minolta auto wide 〉と共に《 千代田光学精工 株式会社 》が初めて外部デザイナーと契約して製造した製品となっています。
〈 minolta V2 〉と〈 minolta auto wide 〉
製品デザインを手掛けた《 有限会社 KAK 》は、工業デザインを志向して集まった『 秋岡 芳夫 、金子 至 、河 潤之助 』( 敬称略、50音順 )によって設立されていて、このときまでに《 成光電気工業 株式会社 》の『 セコニック : SEKONIC 』ブランドでの仕事が高く評価されていました。
〈 minolta auto wide 〉
《 有限会社 KAK 》と《 千代田光学精工 株式会社 》
については– コラム –
の項で紹介しています
〈 minolta V2 〉の軍艦部
トップカバーの正面は、中央にファインダー窓用の大きな開口部が一つあり、凸型のシンメトリックな形状です。
開口部には黒色のマスクで仕切られた「 距離計窓 」「 ブライトフレーム用採光窓 」「 ファインダー窓 」が並びます。
ファインダーの倍率は0.6倍、距離計の基線長は45㎜、ブライトフレームが距離計に連動するパララックス補正機能付き。
向かって左下にあしらわれた『 minolta 』のロゴタイプは、《 KAK 》によってデザインされたもの。
〈 minolta V2 〉の軍艦部
トップカバーの正面は、中央にファインダー窓用の大きな開口部が一つあり、凸型のシンメトリックな形状です。
開口部には黒色のマスクで仕切られた「 距離計窓 」「 ブライトフレーム用採光窓 」「 ファインダー窓 」が並びます。ファインダーの倍率は0.6倍、距離計の基線長は45㎜、ブライトフレームが距離計に連動するパララックス補正機能付き。
向かって左下にあしらわれた『 minolta 』のロゴタイプは、《 KAK 》によってデザインされたもの。
〈 minolta V2 〉の軍艦部は凸型で、高くなっている中央部分にはレンジファインダーの窓が並び、低くなった左右の右手側に巻き上げレバーとシャッターボタン、左手側に巻き戻しクランクとフィルムカウンターが配置されています。
トップカバーは本体を深く覆っていて、相対的に貼り革部分の高さが小さい全体のバランスと、左右にシンメトリックなデザインとが特徴的です。
シャッターボタンの基部と巻き戻しクランクには、正面から見た同じ高さに黒色のラインが引かれています。
〈 minolta V2 〉搭載の「 ROKKOR – PF 1:2 f= 45㎜ 」
鏡筒正面の化粧リングには、搭載する撮影レンズを示す「 ROKKOR – PF 1:2 f= 45㎜ 」の表記があります。
焦点距離45㎜ 、口径比1:2というスペックは、この当時に競合各社が大衆機モデルでの上位仕様として、相次いで投入していたクラスの大口径レンズとなります。
《 千代田光学精工 株式会社 》のレンズ銘 『 ROKKOR 』の後に、ハイフンでつなげて記された『 PF 』のアルファベット2字は、レンズ構成を示す識別記号になっています。
2文字を、頭文字でラテン語の数量詞とアルファベット順を順序数として数えて読んで、、それぞれを[群数 ]と[ 枚数 ]として表示するというものです。
[ P ]と[ F ]はそれぞれ[ Penta = 5 ]と[ ABCDEF = 12345 6 ]を表す記号となり、『 ROKKOR – PF 1:2 f= 45㎜ 』のレンズ構成が5群6枚である事を示しています。
〈 minolta V2 〉の『 ROKKOR – PF 1:2 f= 45㎜ 』は、このスタイルでスペック表記がされた最初の撮影レンズとなっています。
フォーカスリングには滑り止め加工だけでなく、指掛かりとなる半円形のノブが右手側に取り付けられています。
フラッシュ用のシンクロコネクターは鏡筒の左手側にあり、プラグの固定と接点の保護とを兼ねたリング状のネジで取り付けられています。
フォーカスリングには幅が狭められている部分がり、操作角度の90°にあたる円周部分がコネクターと干渉しないようになっています。
幅の狭められた部分は、直進ヘリコイド式の機構による前後の動きと、フォーカスリングの回転の動きとに合わせたカーブを描いています。強く面取りされた曲線は、干渉を避けるための目的であると同時に、デザイン上のポイントになっているように思えます。
また、フォーカスリングに取り付けられたノブには、幅の狭められた部分のグリップを補う役割のある事が判ります。
巻き上げレバーの回転角度は220°と深く、分割巻き上げが可能
1ストロークの220°という大きな操作角度を、ラチェットギアが組み込まれたレバーで巻き上げる方式は、このサイトで紹介している〈 minolta auto wide 〉と同じ仕様です。
フィルムカウンターは巻き戻しクランクの後方にあります
フィルムカウンターはトップカバー上の左手側にあり、巻き戻しクランクの後方に表示窓があります。
順算式のカウンターは、スタート位置の ⚫︎ からフィルムを装填したあとの2コマ分の送りが ・ で進み 1 ・ ・ 4 ・ 6 ・ 8 ・ 10 ‥‥ と 36 まで続きます。
[ 20 ]と[ 36 ]がオレンジ色のハイライト表示になっています。カウンターの表示は[ 36 ]までですが、巻き上げによってもう一コマ分は表示が進み、それ以上は巻き上げをする事が出来ても表示は動かずにマークの無い〝 37 〟に相当する位置にとどまります。
フィルムカウンターは『 自動復元式 』で、撮影後に裏蓋を開けると元の位置に戻りリセットされます。
- 裏ブタは左手側の側面にあるタブを持ち上げると開きます。
- パトローネの出し入れは、フィルム室から巻き戻し軸を引き上げて行う方式です。
巻き戻しクランクのレバーに違いのある製品があります
- クランクのレバー中央に凹みがある鏡面仕上げのタイプ
- クランクのレバーがフラットな切削面のタイプ
- クランクのレバー中央に凹みがある鏡面仕上げのタイプ
- クランクのレバーがフラットな切削面のタイプ
画像の左側は中央に凹みがある鏡面仕上げで、右側は格納した状態でフラットになる切削面で仕上げられています。
発売時の広告には左側のタイプが取り付けられた製品が載っており、右側の製品とはシリアルNo.に開きがある事からも、仕様変更された違いだと思われます。
- 巻き上げレバーの指がかり部分が、鏡面仕上げのタイプ
- 巻き上げレバーの指がかり部分が、フラットな切削面のタイプ
- 巻き上げレバーの指がかり部分が、鏡面仕上げのタイプ
- 巻き上げレバーの指がかり部分が、フラットな切削面のタイプ
巻き戻しクランクのレバーと同様の仕上げによる違いが、巻き上げレバーの指がかり部分にも見られます。
このあたりのディティールは意図して合わせられているようです。
裏蓋の内側に取り付けられているフィルム圧板の形状にも違いがあります
左右の画像は、巻き戻しクランクに違いがある製品のフィルム圧板を比較したもので、形状が異なっています。
生産が進められた過程で、巻き戻しクランクと併せて変更されている事が判ります。
左側のフィルム圧板は発売が先行している〈 minolta auto wide 〉と同じものです。
右側は同時期に〈 minolta V2 〉に次いで発売された〈 minolta SR2 〉と同じタイプのものであり、改良である事が巻き戻しクランクの変更よりも明確だといえます。
〈 minolta SR2 〉の開発に際して検証されたものだと思われます。
- 左右の縁と千鳥掛けに並ぶドットによって、表面に凹凸が付けられたタイプ
- 左右に大きく全体的にフラットで、表面に針穴状の微細な凹みがあるタイプ
- 左右の縁と千鳥掛けに並ぶドットによって、表面に凹凸が付けられたタイプ
- 左右に大きく全体的にフラットで、表面に針穴状の微細な凹みがあるタイプ
最高速度 1/2000( 秒 )のシャッタースピードを実現した
『 OPTIPER HS CITIZEN 』
〈 minolta V2 〉の最高速度 1/2000( 秒 )のシャッタースピードは、《 千代田光学精工 株式会社 》と《 シチズン時計 株式会社 》が共同開発したレンズシャッター『 OPTIPER HS CITIZEN 』によって実現されています。
フォーカスリングに取り付けられているシルバー色のノブを挟むかたちで、『 OPTIPER HS CITIZEN 』のシャッター銘が記されています。
『 近日発売 』とある広告には、見開きの大見出しに『 遂に現れた レンズシャッターの革命児! 驚異的高速度 1/2,000秒付 』と掲げて、1/2000(秒)のシャッター速度で撮影が行える製品であることがピーアールされています。
さらに『 従来のカメラでは写せなかった高速度、高照度の新分野を開拓 (日、独、米特許出願)』と題して、搭載シャッターを次のように記述しています。
ミノルタV2は画期的な発明によって一挙に従来の
シャッターの 4倍もの高速度を正確に出すことに
成功しました。
その為、近年フィルム感度の急速の進歩によって
高感度フィルムを使用する場合、従来のカメラで
は最高速度を使っても尚露出過度になる海浜、山
岳、スキー等非常に明るい被写体や、ブレてしま
って写せないスポーツ等の高速動体の瞬間を、ミ
ノルタV2は近距離から適確に写し止めることが出
きます。
諸元には、シャッターを次のように記載しています。
シャッター: シチズン オプチパーHS、MX接点
倍数系列、等間隔目盛、B.1~1/2000秒
フリーライトバリュー、セルフ内蔵
発売後の広告では、『 超高速を止める1/2000秒付 』という見出しとともに、『 従来のカメラでは写せなかった高速度、高照度の新分野を開拓 (日、独、米特許出願)レンズシャッターの革命 』のタイトルで、搭載シャッターを次のように記載しています。
従来のカメラでは高感度フィルムを使用する
場合シャッター速度の不足のために露出過度
になってしまう海浜、山岳、スキー等の非常
に明るい被写体や、ブレてしまって写せない
スポーツ其の他の高速度動体の瞬間をミノル
タV 2 は的確に写し止める事が出来ます。
オプチパーHS シチズン セルフ内蔵
『 アサヒカメラ 』誌
1958年10月号
「 シチズン オプチパーHS 」
『 アサヒカメラ 』誌
1958年12月号
「 オプチパーHS シチズン 」
発売前と発売後の掲載広告とで、シャッター銘の表記に違いがあります。
シャッター銘は『 シチズン 』と『 オプチパーHS 』の部分でスペースによって区切られていて、その表記順が前後に入れ替わっています。
発売前の予告掲載では〝 シチズン 〟が 前 の「 シチズン オプチパーHS 」
発売後の広告掲載では〝 シチズン 〟が 後 の「 オプチパーHS シチズン 」
– 画像左 –「 CITIZEN OPTIPER HS 」
– 画像右 –
「 OPTIPER HS CITIZEN 」
「 CITIZEN OPTIPER HS 」
– 画像右 –
「 OPTIPER HS CITIZEN 」
製品に記されたシャッター銘にも、「 CITIZEN 」と「 OPTIPER HS 」の前後表記が違うものがあります。
広告にだけ見られる表記の違いではなく、実機にも表記の違いがある事から、製品の生産が始まり発売予告が出稿された時点では変更理由がなかったものが、出荷後にその理由が生じて変更を行なった事が判ります。
表記が異なっている比較画像の製品はそれぞれ、違いがある部分として先に紹介した「 巻き戻しクランクのレバー 」,「 巻き上げレバーの指がかり部分 」の仕上げと、「 フィルム圧板 」の仕様とを比較した製品です。
シリアルNo.からすると、数千オーダーの初期ロットが「 CITIZEN OPTIPER HS 」を記して製造された事になります。
レンズシャッターのシャッタースピードは、組み込まれたスプリングの力でシャッター羽根が往復する時間が最高速度となり、低速側の設定はブレーキを掛ける事で制御されます。
強力なスプリングで速度を上げる方法はメカニズムへの負荷が大きくなり、それまでの機構では 1/500( 秒 )までが限度だとされていました。
最高速度 1/2000( 秒 )を実現した『 OPTIPER HS CITIZEN 』の機構は、1/1000( 秒 )と 1/2000( 秒 )の設定ではシャッター羽根が通常より深く重なった状態で開閉します。
シャッター羽根の開閉を通常より小さな往復距離で作動させる事で、1/500( 秒 )のシャッターメカニズムのままでそれ以上の高速開閉を実現しています。
上の図には『 OPTIPER HS CITIZEN 』シャッターの閉じた状態が様式的に描かれています。
5枚のシャッター羽根が重なる事で閉じられているシャッターは、円の外側にシャッター羽根が引き込まれる事で開き、重なった状態まで戻る事でレリーズされます。
円の中で重なり合って閉じている状態のシャッター羽根が、円の外側に引き込まれて開いた状態とを往復する時間が、レンズシャッターのシャッター速度となります。
- 図の左端は、シャッター羽根が所定の重なりをもって閉じている状態です。
この状態で閉じているシャッターは従来の機構と同じように作動して、1/500( 秒 )を最高速度としレリーズされます。 - 図の中央は、所定よりもシャッター羽根が深く重なっている状態です。
この状態で閉じているシャッターは動作の始点が深くなっているため、同じ作動範囲で開閉するシャッター羽根は開き切らずに閉じます。
シャッターが開き始めてから閉じられるまでの距離は短くなり、シャッター羽根の運動速度が同じでも開閉時間が短くなります。
『 OPTIPER HS CITIZEN 』は、この仕組みよって従来のシャッター機構を大きく変える事なく、シャッタースピードを上げる事に成功しています。
この状態のとき、シャッタースピードは 1/1000( 秒 )となります。 - 図の右端は、閉じたシャッター羽根の重なりが図の中央よりも更に深くなった状態です。
シャッターが開き始めてから閉じられるまでの往復距離が更に短くなったシャッター羽根は、更に早くシャッターを開閉させる事が出来ます。
この状態のときのシャッタースピードが、『 OPTIPER HS CITIZEN 』が実現した最高速度 1/2000( 秒 )を実現しています。
『 OPTIPER HS CITIZEN 』は、従来の4倍となる 1/2000( 秒 )の最高速度を実現した画期的なシャッターでありながら、大衆機市場への投入を実現しています。
これは、従来のメカニズムを大きく変更していない事で可能になり、1/1000( 秒 )と 1/2000( 秒 )のシャッタースピードの設定に【 シャッター機構の開口部に対してシャッター羽根が全開とならない 】という機能面での制限を伴っています。
1/1000( 秒 )と 1/2000( 秒 )の設定では、全開にならないシャッター羽根がレンズの口径に対して光学的に干渉してしまうため、シャッター羽根が開く口径までが設定上の最大絞りとなります。
それぞれの最大絞りは、1/1000( 秒 )のときが F4、 1/2000( 秒 )のときには F8となります。
開放絞りのF2よりも、1/1000( 秒 )では2ステップ、 1/2000( 秒 )では4ステップ以上絞り込んだ設定にする必要があります。
1/1000( 秒 )と 1/2000( 秒 )を設定した場合にも、絞りリングの操作にリミッターが働くような機能はなく、撮影設定としては有効ではない開放側の絞り値をセットする事が出来てしまいます。
この制限を撮影者に知らせるアラートとして、絞りリングには設定可能な範囲を示すガイドラインが引かれています。
シャッター速度リングの 1/1000( 秒 )と 1/2000( 秒 )の設定表記はそれぞれ 水色 と 赤色 になっていて、ガイドラインはこの色に合わせて引かれています。
絞り値( F )表示に平行して 水色 と 赤色 で引かれた長短2本のガイドライン
1/1000( 秒 )と 1/2000( 秒 )の設定時に有効となる絞り値を示すために、速度表記と同じ色のラインが絞りリングに引かれています。
それぞれのシャッター速度で設定可能な絞り値は次の通りです。
1000 (1/s) F4 F5.6 F8 F11 F16 F22
2000 (1/s) F8 F11 F16 F22
「 ライトバリュー : Light Value( LV )」の 表示
鏡筒には、3つの操作リング「 フォーカスリング 」「 絞りリング 」「 シャッター速度リング 」それぞれの設定表示とは別に、『 絞り値 』と『 シャッター速度 』を組み合わせた撮影設定を『 LV 値 』で表示するインジケーターがあります。
- 「 フォーカスリング 」の距離表示はリングの本体側にあり、鏡筒基部の「 被写界深度目盛り 」と組み合わせて読むようになっています。
表示は小さく距離表示には目盛りがないものの、同一の正中線上に『 絞り値 』と「 シャッター速度 』の指標が並んでいる事もあり、感覚的には操作上の不都合はありません。 - 左手側へ回転させて絞りを大きくする操作方向の「 絞りリング 」には、右手側に向かって順に大きな設定値が記されています。
手前の鏡筒部分に記されている、黒地に白抜きの三角マーク ▲ が絞り値を合わせる指標です。
絞りの指標の右隣りにある V マークはセルフタイマーの設定マークで、セットレバーの操作方向に記されたものです。 - 右手側へ回転させてシャッター速度を上げる操作方向の「 シャッター速度リング 」には、左手側に向かって順に大きな設定値が記されています。
先端側の鏡筒部分に記されている、黒地に白抜きの逆三角マーク ▼ がシャッター速度を合わせる指標です。
『 LV 値 』の表示は「 絞りリング 」と「 シャッター速度リング 」の間にあります。
「 ライトバリュー 」の設定値(『 LV 値 』)が記されているのは「 シャッター速度リング 」の速度表記の下( 本体側の手前 )で、これと重なり合った「 絞りリング 」に設けられた開口部から表示させる仕組みです。
各シャッター速度に対応した『 LV 値 』が記された後に、絞りの7ステップ分が続けて記されています。
赤文字で記された設定値は 2 から 20 までの順序数で、表示窓になっている絞りリングの開口部を中抜きの三角マーク △ が指標となります。
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– 画像左 –
「 LV 20 」– 画像右 –
「 LV 2 」
「 LV 20 」
「 LV 2 」
– 画像左 – : 設定範囲内の 最大LV〝 20 〟にセットされた状態
・ シャッター速度( 秒 ) = 1/2000
・ 絞り値( F ) = 22– 画像右 – : 設定範囲内の 最小LV〝 2 〟にセットされた状態
・ シャッター速度( 秒 ) = 1
・ 絞り値( F ) = 2
『 ライトバリュー : Light Value( LV )』は〝 光値数 〟という訳語がある、「 絞り値 」と「 シャッター速度 」それぞれの1段階が、レンズを通る光量を倍ずつ変更させる( 2倍または1/2倍 )設定を数値化したもので、次のライトバリュー表に対応しています。
ライトバリュー : Light Value( LV )表
- 黒枠のヨコ軸→が「 絞り値( F )」、タテ軸↓が「 シャッター速度( 秒 )」で、隣りあったベージュの枠内がそれぞれに対応する『 LV 値 』です。
- 白い枠内が「 絞り値( F )」「 シャッター速度( 秒 )」の設定を組み合わせた『 LV 値 』です。
上記のライトバリュー表に対応した「 シャッター速度 」と「 絞り値 」の設定が行える仕様のシャッターが登場した当時には、これを従来型のシャッターと区別するために『 ライトバリュー・シャッター 』という呼称が用いられています。
〈 minolta V2 〉が発売された当時のリリースに〝 フリー・ライトバリュー・システム 〟という製品仕様の紹介があります。
これは、「 絞り値 」と「 シャッター速度 」それぞれの設定値が『 倍数系列 』で、設定操作に〝 連動機構 を 組み込まない 〟仕様である事を意味しています。
〝 フリー・ライトバリュー・システム 〟という呼称は、〝 ライトバリュー・システム 〟との比較により用いられたものです。
- 〝 ライトバリュー・システム 〟は、「 絞り値 」と「 シャッター速度 」を、ライトバリュー表にある同じ数値( LV 値 )の組み合わせで、両方の設定を一操作で同時に変更するシャッター機構です。
- 一方の〝 フリー・ライトバリュー・システム 〟は、シャッター機構に「 絞り値 」と「 シャッター速度 」を連動させる機能はなく、『 LV 値 』を撮影設定として表示するものです。
〈 minolta auto wide 〉
〝 ライトバリュー・システム 〟〈 minolta V2 〉
〝 フリー・ライトバリュー・システム 〟
このサイトが紹介している〈 minolta auto wide 〉は〝 ライトバリュー・システム 〟によるシャッター操作を内蔵露出計と連動させ、『 世界初の内蔵露出計連動カメラ 』として発売された製品です。
〈 minolta V2 〉の登場から2年後となる1960年9月に〈 minolta V3 〉が発売されます。 シャッターの最高速度が 1/3000( 秒 )に高められた〈 minolta V2 〉のアップグレードバージョンといえる製品です。 〈 minolta V3 〉は、 1/3000( 秒 )という〈 minolta V2 〉をも上回る超高速シャッターを実現しています。 撮影レンズのスペックアップも図られ、〈 minolta V2 〉が搭載した「 ROKKOR – PF 1:2 f= 45㎜ 」を上回る「 ROKKOR – PF 1:1.8 f= 45㎜ 」を搭載しています。 同社は後の1966年に、「 ROKKOR – PF 1:1.7 f= 45㎜ 」を搭載した〈 minolta HI-MATIC 9 〉を登場させています。 競合他社の製品には、これを上回る大口径のレンズを搭載したモデルがありますが、《 千代田光学精工 株式会社 》( 1962年に《 ミノルタカメラ 株式会社 》へ商号変更 )の製品では、「 ROKKOR – PF 1:1.7 f= 45㎜ 」が35㎜判のレンズシャッター機に搭載された最大口径の撮影レンズとなっています。 「 シャッターの更なる高速化 」と「 撮影レンズの大口径化 」によるアップグレード以上に、外観上の〈 minolta V2 〉との大きな違いとなっているのが「 露出計の搭載 」です。 《 千代田光学精工 株式会社 》の〈 minolta auto wide 〉をはじめとする『 内蔵露出計連動カメラ 』が登場した1958年以降、メーカー各社から連動露出計を搭載した製品が次々に発売されていきます。 連動露出計カメラが登場する以前のカメラ搭載型の露出計には、小型化によってアクセサリーシューへの取り付けを可能にした露出計『 クリップオン・メーター 』と、これをカメラ本体に組み込んで一体型とした露出計『 ビルトイン・メーター 』とがありました。 『 クリップオン・メーター 』は、用品メーカーや露出計メーカーなどが販売する汎用製品の他に、カメラメーカーが自社製品の専用アクセサリーとして販売したものがあります。 専用製品の『 クリップオン・メーター 』の例として、《 理研光学工業 株式会社 》が〈 Ricoh 35 DeLuxe L 〉の専用アクセサリーとして販売した〈 RICOH METER: リコーメーター 〉があります。 の項で紹介しています 一方の『 ビルトイン・メーター 』はカメラ内蔵型の非連動露出計であり、このタイプの露出計を搭載する製品の多くは連動露出計が実現される以前のものです。 《 千代田光学精工 株式会社 》が 135規格フィルム仕様の製品に露出計を組み込こんだのは、1958年発売の〈 minolta auto wide 〉が最初で、これが世界初の内蔵露出計連動カメラとなりました。 の項で紹介しています 〈 minolta Uniomat 〉の発売は1960年の5月で、その4ヵ月後の9月に発売された〈 minolta V3 〉は、《 千代田光学精工 株式会社 》の135規格フィルム仕様のレンズシャッター機では3機種目の露出計搭載機です。 先行した2つの機種には内蔵露出計との連動機構があり、そのどちらもが新しく考案された仕組みを持ったパイオニア的な製品になっていました。 世界初の連動露出計内蔵カメラとなった〈 minolta auto wide 〉は、《 千代田光学精工 株式会社 》が初めて外部のデザイン会社と契約して製造した製品でした。 《 千代田光学精工 株式会社 》が新しいアプローチでデザインした〈 minolta auto wide 〉と〈 minolta V2 〉は、アメリカ市場に進出して間もない当時の《 千代田光学精工 株式会社 》が、製品の意匠とブランディングに係るデザインを新たにする商品開発を行うなかで、大衆機市場に相次いで投入した製品でした。 世界初の機能を持ったカメラとして開発された2つの製品はそれぞれ、連動露出計を搭載した〝 ライトバリュー・システム 〟のカメラ〈 minolta auto wide 〉と、超高速シャッターを搭載した〝 フリー・ライトバリュー・システム 〟のカメラ〈 minolta V2 〉となって登場しています。 シャッターの高速化を訴求した〈 minolta V2 〉のアップグレードバージョンである事が、モデル名の〝 V3 〟からも判る〈 minolta V3 〉は、最高速度 1/3000( 秒 )のシャッタースピードを実現した製品です。 〈 minolta V3 〉の仕様を、〝 フリー・ライトバリュー・システム 〟で撮影設定を行う〈 minolta V2 〉をシャッターの高速化を柱にアップグレードしたものとしてみると、内蔵露出計が連動機構を持たない『 ビルトインメーター 』となった事は必然的に思えます。最高速度 1/3000( 秒 )のシャッタースピードを達成した
〈 minolta V3 〉のライトバリュー
1960年発売
〈 minolta V3 〉
メカニズムそのものに〈 minolta V2 〉との違いはなく、シャッターも同じ『 OPTIPER HS CITIZEN 』が搭載されています。
〈 minolta V3 〉搭載の「 ROKKOR – PF 1:1.8 f= 45㎜ 」
焦点距離 45㎜ , 口径比 1:1.8 というスペックは、競合する当時のメーカー各社が他社製品との差別化を図り、大衆機モデルの撮影レンズを大口径化するなかでの搭載となっています。
〈 minolta HI-MATIC 9 〉の他に「 ROKKOR – PF 1:1.7 f= 45㎜ 」を搭載した製品には、後継機種で同クラスのシリーズ最終モデルとなる〈 minolta HI-MAIC 11 〉があります。
〈 minolta V3 〉が発売されたのと同じ1960年には、本格的な『 EE( イーイー ):Electoric Eye( エレクトリック アイ )』機構を搭載した大衆機市場向けの製品が登場するなど、この間にレンズシャッター機の連動露出計は急速に発展しています。
カメラ本体にマッチするようにデザインされ、搭載シャッターのライトバリュー設定に対応したメーター表示になっています。
〈 RICOH METER 〉のデザインは、〈 minolta auto wide 〉,〈 minolta V2 〉をデザインした《 KAK 》が、《 成光電気工業 株式会社 》との契約の下で手掛けています。〈 Ricoh 35 DeLuxe L 〉と『 RICOH METER 』
については– コラム –
《 千代田光学精工 株式会社 》の製品では、ライトバリュー専用表示のメーターが組み込まれた 120規格フィルム 6 × 6 (㎝) フォーマット仕様の2眼レフ機〈 Minolta AUTOCORD L 〉が1955年に発売されています。
同社が〈 minolta auto wide 〉の次に、露出計を搭載した製品は 1960年発売の〈 minolta Uniomat 〉で、シャッターの操作リングを一つだけ持つ〝 ユニシステム 〟の内蔵露出計連動カメラでした。〈 minolta Uniomat 〉と『 ユニシステム 』
については– コラム –
世界初の 1/2000( 秒 )を達成した高速シャッターを搭載する〈 minolta V2 〉の開発も同じデザイン契約のもとで行われ、〈 minolta auto wide 〉と同じ1958年に発売されています。
搭載する撮影レンズも、大口径タイプへとスペックアップされています。
さらに、〈 minolta V2 〉では未搭載だった露出計が組み込まれましたが、〈 minolta V3 〉の内蔵露出計にはシャッターとの連動機構がありません。
トップカバー正面には、露出計の受光部とレンジファインダーの各種窓が一つの開口部に配置されています。
距離計窓の一部が、露出計の受光窓に嵌まり込んでいるようにレイアウトされているのが特徴的です。
〈 minolta V3 〉の『 ビルトインメーター 』は、「 ライトバリュー 」を表示する『 ライトバリュー・メーター 』になっています。
「 シャッター速度 」と「 絞り値 」を設定変更して、鏡筒の操作リングに表示される「 ライトバリュー 」の設定値(『 LV 値 』)をメーター針が指示す『 LV 値 』 と合わせる事で、適切な露出となる撮影設定を行う仕組みです。
内蔵露出計には感度設定の機能があり、背面のダイヤル操作で設定します。 鏡筒の構造に違いはなく、「 絞りリング 」の〝 開口部 〟を表示窓として、設定のライトバリューを確認する仕組みも同じですが、操作リングの設定表示にはレイアウトの変更があります。 操作リングの設定値を表示させる指標の位置が異なっていて、『 ライトバリュー( LV 値 )』を表示する「 絞りリング 」の〝 開口部 〟の位置にも違いがあります。 〈 minolta V2 〉 〈 minolta V3 〉
ダイヤルは左右両方向に操作が可能で、露出計の感度設定とメーター表示の切り替えを行います。感度設定の範囲は ASA 10 〜 ASA 1600 測定範囲は LV3 〜 LV21
感度表示は〝 ASA 〟規格のみで、メーター窓の枠外に、感度表示の単位として直接トップカバーに彫り込まれています。
トップカバー上の「 露出計のメーター 」と「 絞りリング 」の〝 開口部 〟に表示される、双方の『 ライトバリュー( LV 値 )』を確認しやすくする為に、鏡筒の操作リングの表示レイアウトが変更されています。
内蔵露出計との連動機構がない〈 minolta V3 〉のシャッター操作は、露出計非搭載の〈 minolta V2 〉と同じです。
また、フラッシュ用の「 シンクロ接点切り替えレバー 」と「 セルフタイマーのセットレバー 」は、カラーリングが変更されています。
- 〈 minolta V2 〉では鏡筒の正中線上に並んでいた「 シャッター速度リング 」と「 絞りリング 」の指標[ ▼ ]と[ ▲ ]は、〈 minolta V3 〉では同軸にある上下の位置関係を変えずに左手側に移動しています。
- 〈 minolta V2 〉では「 絞りリング 」の設定値表記の左手側に設けられていた『 LV 値 』を表示する〝 開口部 〟は、〈 minolta V3 〉では右手側に変更されています。
左手側に回転させて絞り込む「 絞りリング 」の設定操作によって、『 LV 値 』表示が鏡筒の裏側に廻り込まないように、〈 minolta V2 〉では『 F値 』の設定表記の左手側にあった「 絞りリング 」の〝 開口部 〟は、F値の設定指標と表記の全体を左手側に移動させた上で、右手側に変更されています。
絞り値( F )表示に平行して 水色 と 赤色 で引かれた長短2本のガイドラインがあります。
絞りの設定に制限があるシャッター速度で有効となる絞り値を、速度表記と同じ色のラインを「 絞りリング 」に引いて示しているのは〈 minolta V2 〉と同じです。
〈 minolta V2 〉では 1/1000( 秒 )以上のシャッター速度に制限のあった絞りの設定は、〈 minolta V3 〉では 1/2000( 秒 )以上になっています。
搭載レンズの口径比が大きくなり「f1.8 」となった開放絞りから、1/1000( 秒 )の設定を可能にしています。
1/2000( 秒 )と 1/3000( 秒 )のシャッター速度で設定可能な絞り値は次の通りで、〈 minolta V2 〉での制限と同じです。
2000 (1/s) F4 F5.6 F8 F11 F16 F22
3000 (1/s) F8 F11 F16 F22
〈 minolta V2 〉の搭載「 シャッター 」と「 撮影レンズ 」をアップグレードした〈 minolta V3 〉は、新たに設定可能になった『 シャッター速度 3000 (1/s) 』と『 開放F値 1.8 』の設定値表示を、それぞれの操作リングに増設しています。
ライトバリュー換算した〈 minolta V3 〉の設定範囲を、〈 minolta V2 〉と比較したのが次の表です。
– 画像左 –
「 LV 20.5 」
– 画像右 –
「 LV 1.7 」
– 画像左 – : 設定範囲内の 最大LV〝 20.5 〟にセットされた状態
・ シャッター速度( 秒 ) = 1/3000
・ 絞り値( F ) = 22– 画像右 – : 設定範囲内の 最小LV〝 1.7 〟にセットされた状態
・ シャッター速度( 秒 ) = 1
・ 絞り値( F ) = 1.8
〈 minolta V2 〉から〈 minolta V3 〉へのアップグレードにより設定可能になったシャッターの最高速度 1/3000( 秒 )は、ライトバリュー式の倍数系列にならない設定値です。
ライトバリューに換算すると小数を含む[ LV11.5 ]となり、ライトバリューシステムで設定する順序数になりません
同様に、大口径化した撮影レンズの開放F値 1.8 は、ライトバリュー換算では[ LV1.7 ]となります。
鏡筒に表示されるライトバリューは、最小設定値の 1.7 、 2 〜 20 の順序数、最大設定値の 20.5 となっています。
最小値と最大値の他は、小数を含むLV値を示す表示や指標などのマークはありません。
また、露出計のライトバリュー・メーターは整数のLV値だけを表示し、設定値に対応する ⚫︎ マークが設けられている他には表示がなく、目盛り等で中間値の表示が出来るようになっていません。
アップグレードによって新たに設定可能となった『 シャッタースピード 』と『 絞り値 』は、ライトバリュー式の撮影設定に用いる事が出来ないものの、〈 minolta V2 〉では 1/1000( 秒 )の設定で制限のあった絞り値が有効となり、〝 フリー・ライトバリュー・システム 〟での撮影設定の範囲が拡大しています。
巻き上げレバー
露出計のメーターがトップカバー上部の右手側に設けられた〈 minolta V3 〉は、巻き上げレバーがトップカバーの背面側にあります。
巻き上げレバーは背面の右手側にあり、レバーの上にトップカバーが乗っているようになっています。指掛かりの部分が背面に沿ってL字型に曲げられたレバーは、操作すると翼のように開きます。
この形態そのものは独創的なものではなく、《 千代田光学精工 株式会社 》の製品では〈 minolta V3 〉よりも先行して〈 minolta Uniomat 〉がこのレイアウトになっている他、以降に同社が発売したトップカバー上にメーターをもつ製品の多くにも採用されています。
ただし、操作面では〈 minolta V2 〉とも〈 minolta Uniomat 〉とも異なり、操作角度が小さいレバーを2回操作して巻き上げとシャッターチャージを行う〝 2ストローク( 2回巻き上げ ) 式 〟になっています。
〝 1ストローク式 〟の〈 minolta V2 〉が操作角度 220° の巻き上げレバーであるのに対して、〝 2ストローク式 〟の〈 minolta V3 〉は巻き上げレバーの操作角度が 130° です。
– 画像左 –〈 minolta V2 〉
– 画像右 –
〈 minolta V3 〉
〈 minolta V2 〉
– 画像右 –
〈 minolta V3 〉
画像左:巻き上げレバーを最大角度の220°まで操作した状態の〈 minolta V2 〉
画像右:巻き上げレバーを最大角度の130°まで操作した状態の〈 minolta V3 〉
《 千代田光学精工 株式会社 》には〝 2ストローク式 〟を採用した製品がそれまでに無く、ラチェットギアで分割巻き上げが可能な、大きな操作角度の巻き上げレバーによる〝 1ストローク式 〟のセルフコッキング機構が、1955年の〈 Minolta .A. 〉以降のモデルに共通した仕様です。
また、〈 minolta V3 〉以降の製品に〝 2ストローク式 〟は採用されていない為、《 千代田光学精工 株式会社 》では〈 minolta V3 〉が唯一の〝 2ストローク式 〟モデルとなっています。
1960年5月発売
〈 minolta Uniomat 〉
1960年9月発売
〈 minolta V3 〉
巻き上げレバーの上に重ねたようなレイアウトで、〈 minolta V2 〉から新たに露出計が搭載された〈 minolta V3 〉は、トップカバーの背面からレバーを起こして右手側に向かって倒すようにして巻き上げ操作を行います。
一見すると、〈 minolta V3 〉の巻き上げレバーの操作角度が〈 minolta V2 〉よりも小さくなった事は、変更された巻き上げレバーのレイアウトにその理由があるように思えます。
ところが、〈 minolta V3 〉と同じスタイルの巻き上げレバーが採用された〈 minolta Uniomat 〉の操作角度は 220° で、〈 minolta V2 〉と同様に本体の前方にまで大きく押し出す事が可能です。
巻き上げレバーのレイアウト変更が、その操作角度を制限したのではない事になります。
この事は〈 minolta V3 〉への〝 2ストローク( 2回巻き上げ )式 〟セルフコッキング機構の採用が、1/3000( 秒 )を実現したシャッターへの負荷軽減を意図したものであると示唆しています。
- 〈 minolta Uniomat 〉の巻き上げレバーの 220° という操作角度は〈 minolta V2 〉と同じで、〈 minolta auto wide 〉とも共通しています。
- 〈 minolta Uniomat 〉のシリーズモデルで1961年発売の〈 minolta Uniomat II 〉、1964年発売の〈 minolta Uniomat Ⅲ 〉も同様に 220° になっています。
さらに、1959年発売の〈 minolta A3 〉の巻き上げレバーの操作角度もまた 220° で、そのアップグレードバージョンで1960年発売の〈 minolta A5 〉と1961年発売の〈 minolta AL 〉も同じです。このように、220°という巻き上げレバーの操作角度は、〈 千代田光学精工 株式会社 〉の多くの製品に共通した仕様になっています。
巻き上げレバーの操作角度が 130° の〝 2ストローク式 〟を採用している〈 minolta V3 〉は、〈 千代田光学精工 株式会社 〉の製品では他にない、特異な仕様であった事が判ります。
フォーカスリングのノブ
フォーカスリングにはフルート加工によるミゾが滑り止めとして施されているほか、指掛かりを補助する半円形のノブが取り付けられています。
〈 minolta V3 〉ではノブの取り付け位置が変更され、〈 minolta V2 〉よりも右手側に寄っています。
この取り付け位置の変更は、〈 minolta A3 〉からの改良として〈 minolta A5 〉に行われたのと同じで、特に近接撮影時におけるフラッシュ撮影でのフォーカシングを改善するものとされています。
– 画像左 –〈 minolta V2 〉
– 画像右 –
〈 minolta V3 〉
〈 minolta V2 〉
– 画像右 –
〈 minolta V3 〉
- 〈 minolta A3 〉から〈 minolta A5 〉へのアップグレードに際しては、取り付け位置だけでなくノブそのものが大型化されていますが、〈 minolta V2 〉と〈 minolta V3 〉の場合は取り付け位置だけの変更となっています。
– 画像左 –〈 minolta V2 〉
– 画像右 –
〈 minolta V3 〉
〈 minolta V2 〉
– 画像右 –
〈 minolta V3 〉
- ノブの取り付け位置は、搭載シャッター銘である『 OPTIPER UNI CITIZEN 』の表記とともに移動されています。
- フォーカスリングの外周に、ノブの取り付け位置を避けてつけられている滑り止めのミゾは、全体の配置を変更して加工されています。
鏡筒側面にあるフラッシュ撮影用のシンクロ接点は、フォーカスリングの操作によって繰り出される部分の底側の左手寄りにあります。
フォーカスリングには、シンクロ接点との干渉を避けるために幅が狭くなっている箇所があり、半円形のノブが取り付けられているのは、カーブを描いて幅が狭まる部分の右手側の端です。
〈 minolta V3 〉では右手側にあるノブの取り付け位置をさらに右側にする改良が施され、フラッシュ撮影の際に取り付けるシンクロコードとそのコネクターが、特に近距離でのフォーカシングで妨げになるのを軽減しています。
– 画像左 –〈 minolta V2 〉
– 画像右 –
〈 minolta V3 〉
〈 minolta V2 〉
– 画像右 –
〈 minolta V3 〉
- 画像左の〈 minolta V2 〉では、最短撮影距離まで鏡筒を繰り出すと、フォーカスリングのノブが端子に取り付けたシンクロコードの後ろに完全に回り込む状態になります。
- 画像右の〈 minolta V3 〉では、最短撮影距離まで鏡筒を繰り出した場合でも、フォーカスリングのノブは端子に取り付けたシンクロコードの後ろにまでは回り込みません。
〈 minolta V2 〉のシャッター機能を強化し、撮影レンズが大口径化された〈 minolta V3 〉には露出計までが組み込まれました。
世界初が試みられた〈 minolta V2 〉と、そのスペックが追求された〈 minolta V3 〉の外観は、実際の違いよりよりも大きく異なっている印象を受けます。
〈 minolta V2 〉と〈 minolta V3 〉の印象を大きく変えている違いは、主に巻き上げレバーがある軍艦部の右手側にあります。
〈 minolta V3 〉の内蔵露出計は、巻き上げレバーと上下に重なる位置関係になっているため、軍艦部のデザインが大きく変更されています。
露出計の受光窓はレンジファインダーの窓枠と一体化したデザインとなっていて、特に魚眼レンズが並ぶ受光窓と距離計窓とが立体的にレイアウトされている事が特徴的です。
『 2ストローク式 』のセルフコッキングの採用といった機構上の仕様変更も伴って、〈 minolta V2 〉と共通のディテールを持ちながらも、新しい別の製品としてデザインされているように感じられます。
〈 minolta V2 〉〈 minolta V3 〉
〈 minolta V2 〉を〈 minolta V3 〉にアップグレードしたのと同様に、シャッターと撮影レンズをスペックアップして露出計を内蔵させている〈 minolta A3 〉と〈 minolta A5 〉、そして〈 minolta AL 〉へのモデルチェンジでは、その逆に実際よりも外観の印象に違いがないようです。
それぞれの機種でのアップグレードに、新たな機能が外観のアウトラインを変える事なく組み込まれています。
〈 minolta A3 〉
〈 minolta A5 〉
( ROKKOR TD 45㎜ f2.8 )〈 minolta A5 〉
( ROKKOR PF 45㎜ f2.0 )〈 minolta AL 〉
〈 minolta A3 〉から〈 minolta A5 〉へのアップグレードではファインダーの方式が変更され、反射鏡式( アルバタ式 )から採光窓式( 透過光式 )のブライトフレームになっています。
〈 minolta A5 〉から〈 minolta AL 〉へのアップグレードでは露出計が搭載され、定点合致式( ゼロメソッド式 )による〝 完全連動 〟機能を実装しています。
各機種を次の項で比較しています
オートワイド12
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