〈 minolta A3 〉は 1959年に当時の《 千代田光学精工 株式会社 》 が製造した、35㎜フィルムで撮影を行う135規格のスチルカメラです。
同社が 1955年より製造していた〈 Minolta ・A・ 〉系統のレンジファインダー式レンズシャッター搭載機の後継機種であり、エントリーモデルの新製品として登場しています。
〈 Minolta ・A-2・ 〉が種々のアップデートにより最終的に獲得していたスペックを踏襲していながらも、操作方法が大きく転換されてスタイルの一新が図られています。
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〈 Minolta ・A-2・ 〉と〈 minolta A3 〉
については– コラム –
の
項で紹介しています
〈 minolta A5 〉は 1960年の発売で、前年に発売されている〈 minolta A3 〉のアップグレードバージョンといえる製品です。
ファインダーとシャッターの機能がそれぞれ強化されています。
〈 minolta A3 〉はアップデートした事による、そして〈 minolta A5 〉にはスペックアップが図られているバリエーションがあり、それぞれ搭載レンズが異なるモデルが製造されています。
– 画像左 –
1959年8月発売
〈 minolta A3 〉– 画像右 –
1960年3月発売
〈 minolta A5 〉製品パッケージ
〈 minolta A3 〉製品パッケージ
〈 minolta A5 〉
1959年8月発売
〈 minolta A3 〉
1960年3月発売
〈 minolta A5 〉
〈 minolta A3 〉
〈 minolta A5 〉
– 画像左 –
〈 minolta A3 〉
トップカバーに記されている製品銘– 画像右 –
〈 minolta A5 〉
トップカバーに記されている製品銘
〈 minolta A3 〉
トップカバーに記されている製品銘
〈 minolta A5 〉
トップカバーに記されている製品銘
ファインダー
外観で
〈 minolta A3 〉と〈 minolta A5 〉が
最も大きく異なっているのは
『 ファインダー窓 』です。
〈 minolta A3 〉は〝 反射鏡式( アルバタ式 )〟のブライトフレームが浮かぶレンジファインダーであるのに対して、〈 minolta A5 〉では〝 採光窓式 〟になっています。
スペックの比較としては、〈 minolta A3 〉の反射鏡式のファインダーが〈 minolta A5 〉でパララックス補正機能がある採光窓式に アップグレード したかたちです。
反射鏡式のファインダーを持つ〈 minolta A3 〉は、対物レンズの内側に施されたメッキによって、ファインダー窓が金色を帯びた鏡面に輝きます。
採光窓式ファインダーの〈 minolta A5 〉は、ファインダー窓と距離計窓の間にブライトフレーム用の採光窓が設けられています。
ファインダーの仕様が異なる〈 minolta A3 〉と〈 minolta A5 〉は、トップカバーのデザインが大きく異なっていて、躯体が同じである両者を実際以上に違ったカメラに見せています。
– 画像左 –
〈 minolta A3 〉– 画像右 –
〈 minolta A5 〉
〈 minolta A3 〉
〈 minolta A5 〉
- 画像左 : 〈 minolta A3 〉のファインダー窓と距離計窓は、独立した開口部としてレイアウトされています。
反射鏡になっている対物レンズが見える大きなファインダー窓が外観を特徴付けています。 - 画像右 : 〈 minolta A5 〉は、ファインダー窓 , 採光窓 , 距離計窓 が1つの開口部に横並びにレイアウトされています。
直線的なトップカバーの形に沿った長方形の開口部は、充実した機能によって装飾を必要としないシンプルなデザインになったという印象です。
反射鏡式のブライトフレームになっている〈 minolta A3 〉のファインダー窓からは、距離合わせの二重像を映し込むためのハーフミラーのメッキが中心にだけ施されているのが見えています。
採光窓式のブライトフレームを持つ〈 minolta A5 〉のハーフミラーのメッキは視野全体をカバーするものになっています。
採光窓式のブライトフレームは反射鏡式に比べて明るく、特に低照度の条件下では際立って有利です。
また、近接撮影でのレンジファインダーのパララックス( 視差 )の補正は、反射鏡式の 〈 minolta A3 〉ではブライトフレームに補正用の枠を記して対応しているのに対して、採光窓式の 〈 minolta A5 〉では距離計に連動してブライトフレーム自体が視野の中で動いて補正されます。
シャッター
– 画像左 –
〈 minolta A3 〉– 画像右 –
〈 minolta A5 〉
- 画像左:〈 minolta A3 〉のシャッター速度リングに記されたシャッター銘『 OPTIPER CITIZEN MVL 』
- 画像右:〈 minolta A5 〉のシャッター速度リングに記されたシャッター銘『 OPTIPER CITIZEN MLT 』
〈 minolta A3 〉が搭載する『 OPTIPER CITIZEN MVL 』シャッターは、B , 1 ~ 1 / 500 (s) の速度設定を倍数系列で行う事が出来るものです。
〈 minolta A3 〉が持つこのスペックは、逐次行われたアップデートで〈 Minolta •A-2• 〉が最終的に装備した『 CITIZEN MVL 』によって獲得しているものと同等です。
『 CITIZEN MVL 』 の搭載によって〈 Minolta •A-2• 〉はライトバリュー式の撮影設定を可能にしています。
詳しくは– コラム –
の
項で紹介しています
〈 minolta A5 〉が搭載するシャッターは『 OPTIPER CITIZEN MLT 』というもので、 1/1000(s) の最高速を実現しています。
『 OPTIPER CITIZEN MLT 』シャッターを装備した〈 minolta A5 〉は、『 OPTIPER CITIZEN MVL 』を搭載する〈 minolta A3 〉よりも一段速いシャッター速度の設定が可能となり、B ,1 ~1/1000 (s) の倍数系列での速度設定を実現しています。
『 OPTIPER CITIZEN MLT 』を搭載した〈 minolta A5 〉は、シャッターの最高速度が 1/500 (s) の〈 minolta A3 〉よりも、絞りとシャッター速度の組み合わせによる撮影設定の幅が広くなっています。
撮影レンズの口径比が大きいタイプのバリエーションでは、この組み合わせの幅は更に広くなります。
シャッター速度リングには、速度表示のほかに〈 ライトバリュー : Light Value( LV )〉表示があり、設定速度の表記と同じ列の左手側に LV の順序数が続けて記されています。
詳しくは– コラム –
の
項で紹介しています撮影設定の範囲が拡がった事によって、〈 minolta A5 〉の鏡筒には設定状態を示す各表示が〈 minolta A3 〉よりもさらに多くなり、外周を取り囲む様に並んでいます。
シャッターの速度設定が 1 (s) 〜 1/500(s) の〈 minolta A3 〉で、解放絞りの f2.8 から最小の絞りの f22 までに設定できる LV の範囲は LV3 〜 LV18 です。
シャッターの最高速度が1/1000(s) になった〈 minolta A5 〉は、最小絞り f22 の組み合わせで LV19 が設定可能です。
また、『 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 』を搭載したタイプでは、解放絞りとシャッター速度 1 (s)との組み合わせが LV2 となり、設定可能な範囲が LV2 〜 LV19 へと更に拡がっています。
- 上の4つの表は、搭載レンズ別に〈 minolta A3 〉と〈 minolta A5 〉の LV 設定範囲 を示したものです。
- 黄色でハイライトされている数値がそれぞれの設定範囲を表しています。
鏡筒の〈 ライトバリュー : Light Value( LV )〉表示
( minolta A3 )
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撮影レンズ
搭載レンズのバリエーションが〈 minolta A3 〉では「 改良型 」なのに対して、〈 minolta A5 〉では口径比が異なる「 スペックバリエーション 」として設定されたものになっています。
〈 minolta A3 〉には撮影レンズに「 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 」を搭載した製品と「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」を搭載した製品があります。
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〈 minolta A3 〉
「 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 」– 画像右 –
〈 minolta A3 〉
「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」
〈 minolta A3 〉
「 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 」
〈 minolta A3 〉
「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」
焦点距離と口径比が同じ「 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 」と「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」はレンズ構成が異なるもので、それぞれ「 3 群 5 枚 」構成と「 3 群 4 枚 」構成になっています。
「 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 」は、〈 Minolta ・A-2・ 〉に搭載されているものを継承した撮影レンズです。
〈 minolta A3 〉は当初、このレンズを搭載した製品として1959年の8月に発売されています。
同じ焦点距離と口径比の「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」は、新たに開発されたエントリースペックの標準レンズとして搭載されるようになったものです。
「 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 」が後に「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」へと更新されたかたちです。
〈 minolta A3 〉の翌年となる 1960年3月に発売された〈 minolta A5 〉には「 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 」を搭載した製品は無く、当初から「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」を搭載して登場しています。
「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」の〈 minolta A3 〉への搭載は、〈 minolta A5 〉の発売よりも前に開始されています。
– 画像左 –
「 アサヒカメラ 」誌1960年2月号
〈 minolta A3 〉の広告– 画像右 –
「 アサヒカメラ 」誌1960年3月号
〈 minolta A5 〉の広告
「 アサヒカメラ 」誌1960年2月号
〈 minolta A3 〉の広告
「 アサヒカメラ 」誌1960年3月号
〈 minolta A5 〉の広告
- 画像左:「 アサヒカメラ 」誌1960年2月号( P125 )に掲載されている〈 minolta A3 〉の広告には「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」を搭載した製品が描かれ、キャッチコピーは『 一流メーカーの本格的普及機 』で、製品名『 ミノルタ A3 』の左に〝 ロッコールTD 45㎜F2.8付 〟の表記をしています。
- 画像右:「 アサヒカメラ 」誌1960年3月号( P135 )に掲載されている〈 minolta A5 〉の広告は発売の告知をするもので『 3月1日 全国一斉発売 』とあり、製品名『 ミノルタ A5 』の下に〝 ロッコールTD 45㎜F2.8付 〟の表記があります。
〈 minolta A5 〉には、撮影レンズに「 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 」搭載した製品と「 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 」を搭載した製品があります。
後に〈 minolta A5 〉には 「 5 群 6 枚 」 構成で口径比がより大きい「 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 」を搭載した製品が発売されています。
「 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 」は、1958年に登場している〈 minolta V2 〉に搭載された実績のあるレンズです。
〈 minolta A3 〉には「 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 」を搭載する製品は設定されませんでした。
– 画像左 –
〈 minolta A5 〉
『 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 』搭載– 画像右 –
〈 minolta A5 〉
『 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 』搭載
〈 minolta A5 〉
『 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 』搭載
〈 minolta A5 〉
『 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 』搭載
- 画像左の『 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 』を搭載したタイプの LV 目盛りは 3 から始まります。
- 画像右の『 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 』を搭載したタイプの LV 目盛りは 2 から始まります。
シャッターの最高速度が 1/1000 (s) に上がり LV 19 までの順序数がシャッターリングの外周に記されている〈 minolta A5 〉は、〈 minolta A3 〉と比べると設定情報が増えていて、特に『 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 』搭載のタイプでは更に多くの表示が並びます。
その他の違い
〈 minolta A3 〉と〈 minolta A5 〉とでは
鏡筒のデザインに違いがあります
鏡筒のデザインに違いがあります
鏡筒の外観で最も目立つ違いは、ローレット加工されたフォーカスリングの部分です。
〈 minolta A3 〉が黒一色であるのに対して、〈 minolta A5 〉はゼブラ仕上げになっています。
結果また、全体の配色も変更されていて、〈 minolta A3 〉は鏡筒の先端部分がシルバー色なのに対して〈 minolta A5 〉は黒色です。
– 画像左 –
〈 minolta A3 〉– 画像右 –
〈 minolta A5 〉
〈 minolta A3 〉
〈 minolta A5 〉
- 画像左の 〈 minolta A3 〉 は鏡筒先端のシャッター速度リングがシルバー色で、全体的にコントラストが強い配色。
- 画像右の 〈 minolta A5 〉 はシャッター速度リングが黒色になった事で、速度表記とライトバリュー表記がシルバー色のライン上に並ぶ配色です。
各操作リングの配色が異なっている 〈 minolta A3 〉 と 〈 minolta A5 〉 の鏡筒は、構造が同じでありながらも印象が大きく違うものになっています。
ここには 〈 minolta A5 〉 へのアップグレードの際に、各操作リングの視認性を改善させる目的が見て取れます。
結果として、ファインダーの変更によるトップカバーの違いと相まって両モデルをさらに異なったカメラに見せています。
フォーカスリングに取り付けられているノブの位置が変更されています
〈 minolta A5 〉 では、フォーカスリングの指掛かりとなるノブが大型化し、取り付け位置が 〈 minolta A3 〉 よりも右手側になっています。
– 画像左 –
〈 minolta A3 〉– 画像右 –
〈 minolta A5 〉両機種共にフォーカスリングの右手側に指掛かりとなる半円形のノブが取り付けられています。
〈 minolta A3 〉
〈 minolta A5 〉
ノブの大きさと取り付け位置に見られる違いは 〈 minolta A3 〉 から 〈 minolta A5 〉 へのアップグレードの際に改良点として変更されたものです。
取り付け位置をより右手側に移動させる事で、左手側にあるフラッシュのシンクロコード用のコネクターから遠ざけて、フラッシュ撮影でのフォーカシングの操作性を改善する事が意図されています。
そして、大型化したノブによってグリップの向上が図られています。
本体正面の
「 minolta 」ロゴがあるサインプレート
のデザインに違いがあります
「 minolta 」ロゴがあるサインプレート
のデザインに違いがあります
で紹介しています スポンサーリンク プレートに記されている 「 minolta 」 ロゴの大きさに違いはありませんが、プレートは 〈 minola A5 〉 の方が 〈 minolta A3 〉 のものより小さくなっています。 〈 minolta A5 〉には、「 minolta 」ロゴの下に『 1000 』の文字が記された製品があります。 《 千代田光学精工 株式会社 》は 1958年に〈 minolta V2 〉を発売して、レンズシャッター機で当時の最速となる 1/2000 (s) のシャッター速度を実現した製品をラインナップしていますが、当時の35㎜判のレンズシャッター機の多くが搭載するシャッターの最高速度は 1/500 (s) までのものです。 〈 minolta A3 〉が搭載する『 OPTIPER CITIZEN MVL 』に換えて『 OPTIPER CITIZEN MLT 』 を搭載した〈 minolta A5 〉は、シャッターの最高速度がより高速な 1/1000 (s) へとアップグレードした事により、これを表す『 1000 』をロゴマークと並べて記す事で高速シャッターの装備をアピールしています。 そして1961年には〈 minolta A5 〉の基本的なスペックはそのままに、搭載した露出計に「 定点合致式 」で撮影設定が連動する機能を持った〈 minolta AL 〉が発売されています。 の 〈 Minolta ・A・ 〉と〈 Minolta ・A-2・ 〉には、製造期間中の改良によって操作部品などの形状が異なっていたり、搭載シャッターが違うアップグレードバリエーションがあるのに対して、この両製品からライナップ上の位置を引き継ぐかたちで登場した〈 minolta A3 〉と〈 minolta A5 〉には、改良型やここに紹介した以外のスペックバリエーションは製造されていないようです。 オートワイド12 スポンサーリンク スポンサーリンク 〈 minolta A3 〉と〈 minolta A5 〉には、鏡筒が立ち上がるキワの右手側に、一部分だけ貼り革で覆われていない黒色の塗装面があります。
その塗装面には「 minolta 」のロゴがあしらわれています。
もう少し詳しい背景を
– コラム –
《 千代田光学精工 株式会社 》は〈 minolta A3 〉を発売する前年の 1958年に、同社にとって外部デザイナーを起用して開発した初めての製品となる〈 minolta auto wide 〉を発売しています。
このときにデザインを担っているのが《 KAK 》です。
〈 minolta A3 〉
〈 minolta A5 〉
『 1000 』は、シャッターの最高速度 1/1000 (s) に由来した数字です。
同社が発売した製品で 1/1000 (s) の最高速度を持つレンズシャッター機を数えると〈 minolta A5 〉の他では同じく『 OPTIPER CITIZEN MLT 』を搭載する〈 minolta AL 〉と、プログラムシャッターの 『 OPTIPER UNI CITIZEN 』を搭載した〈 minolta Uniomat 〉と〈 minolta Uniomat II 〉以外には無く、他のメーカーが製造した製品を含めても数機種が知られているだけです。
ただし、発売当初の〈 minolta A5 〉は、この『 1000 』が記されていない〈 minolta A3 〉と同じスタイルでした。
後に『 ROKKOR PF 45㎜ f2.0 』を搭載したバージョンが発売された際に「 minolta 」のロゴに加えて『 1000 』が記されるようになっています。
このため、『 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 』を搭載する〈 minolta A5 〉には、「 minolta 」とだけ記されたものと、『 1000 』が併記されたタイプの両方があります。
〈 minolta A5 〉
〈 minolta AL 〉– コラム –
項で紹介しています
〈 minolta A3 〉の登場以降には、様々な方向性でそれぞれに特徴を持った多様な製品が、同社から次々と発売されていきます。
特定の製品が〈 Minolta ・A・ 〉や〈 Minolta ・A-2・ 〉に改良型を登場させたようにアップデートされる事がなかったのは、その開発サイクルが非常に早いものであったからなのだと想像出来ます。