1959年8月に発売された 〈 minolta A3 〉 は、その製品名から 〈 Minolta ・A-2・ 〉 の後継モデルという印象を受けます。
ところが、その姿は 〈 Minolta ・A・ 〉 系統のカメラとは大きく異なっていて、同じシリーズの後継モデルには見えません。また、操作方法にも決定的な違いがあります。
《 千代田光学精工 株式会社 》 が製造する 35㎜判レンズシャッター機のエントリーモデルのポジションを、 〈 Minolta ・A-2・ 〉 から引継ぐ意味合いを持った製品名として見た方が、無理のない印象です。
– 画像奥 –
〈 Minolta ・A-2・ 〉– 画像手前 –
〈 minolta A3 〉
〈 Minolta ・A-2・ 〉
〈 minolta A3 〉
- 画像手前の〈 minolta A3 〉は、搭載レンズが『 ROKKOR TD 45㎜ 1:2.8 』のタイプ
( 他に『 ROKKOR TE 45㎜ 1:2.8 』を搭載したタイプがあります。 )- 画像奥の〈 Minolta ・A-2・ 〉は、レンズ交換が可能なモデル( LT 型 )で、「 CITIZEN MVL 」シャッターを搭載。
( 専用の望遠レンズ『 TELE ROKKOR 100㎜ F4.8 』を取り付ける際に用いる〝 アーム 〟が鏡筒の左手側にあります )
発売当初〈 minolta A3 〉が搭載した撮影レンズは〈 Minolta ・A-2・ 〉のものを踏襲した3群5枚構成の『 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 』でしたが、程なく3群4枚構成の『 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 』に変更されています。
この事を新硝材を採用した新レンズへの更新だと捉えると肯定的ですが、手間によるコストを削減する合理化を図った変更だったとする見方の方が無理がありません。
– 画像左 –
〈 minolta A3 〉
『 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 』搭載– 画像右 –
〈 minolta A3 〉
『 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 』搭載『 ROKKOR TE 45㎜ f2.8 』
化粧リングのレンズ銘〝 ROKKOR – TE 〟
『 ROKKOR TD 45㎜ f2.8 』
化粧リングのレンズ銘〝 ROKKOR – TD 〟
〈 Minolta ・A・ 〉 系統のカメラはレンズシャッター機でありながら、フォーカルプレーンシャッター機のようにシャッター速度ダイヤルを本体側に備えています。
シャッターを本体側のインターフェースから操作する点が 〈 Minolta ・A・ 〉 系統のカメラに共通した特徴となっています。
スポンサーリンク
このサイトで紹介している〈 minolta auto wide 〉に至っては更に特異で、ライトバリュー・システムを搭載した事により、シャッター速度と絞りの両方を本体側で操作するカメラになっています。
詳しい操作方法を
で紹介しています。
CITIZEN MVL を搭載した〈 Minoita ・A-2・ 〉のライトバリュー表示
CITIZEN MVL を搭載した 〈 Minolta ・A-2・ 〉 では、本体のシャッター速度ダイヤルと鏡筒の絞り表示に、それぞれの設定値とライトバリューが併記されています。
ライトバリュー式の撮影設定をする際には、露出計などで決定したライトバリューの数値に、シャッター速度と絞りのライトバリューを合算した数値を一致させます。
スポンサーリンク
詳しくは
– コラム –
の項で紹介しています
〈 Minolta ・A・ 〉系統のカメラが本体側にあるダイヤルでシャッター操作を行うのに対し、〈 minolta A3 〉は鏡筒にシャッター速度リングがあるスタイルです。
レンズシャッター機として、ベーシックな操作方法のカメラです。
〈 minolta A3 〉 は、シャッター速度を本体側ではなく絞りと同様に鏡筒で操作するスタイルになった事で、「 ライトバリュー 」の表示方法も〈 Minolta ・A-2・ 〉とは違ったものになっています。
〈 minolta A3 〉のシャッター速度リングに記された『 OPTIPER CITIZEN MVL 』の銘
〈 minolta A3 〉 には 『 OPTIPER CITIZEN MVL 』というシャッターが搭載されています。
シャッター速度の設定値が B 、1 〜 500 (1/s) の 「 倍数系列 」になっているもので、このスペックは改良を重ねた 〈 Minolta ・A-2・ 〉が最後に搭載した 『 CITIZEN MVL 』 に等しく、ライトバリュー式の設定が出来るものです。
〈 minolta A3 〉の鏡筒
鏡筒には3つの操作リングがあります。
本体側の被写界深度目盛りのある立ち上がりから 「 フォーカスリング 」 , 「 セルフタイマー と シンクロ接点の切り替えレバー 」 があるスペースを間に挟んで 「 絞りリング 」 ,「 シャッター速度リング 」 の順に並んでいます。
〈 minolta A3 〉 の 「 シャッター速度リング 」 と 「 絞りリング 」
鏡筒の先端側にあるのがシャッター速度リングです。
黒文字で記されているシャッター速度の設定値は、右手側から左に向かって大きくなります。
設定速度は B 1 2 4 8 15 30 60 125 250 500 (1/s)
手前側の黒く塗装されている絞りリングには、絞りの設定値が白文字で記されています。
シャッター速度の表示とは逆に、絞りの設定値は左手側から右に向かって大きくなっていきます。
設定絞り値 F は 2.8 4 5.6 8 11 16 22
スポンサーリンク
〈 minolta A3 〉のシャッター速度と絞りの共通指標
△ マークが、絞りリングとシャッター速度リングの指標になっています。
上下に隣りあったシャッター速度リングと絞りリングの指標はどちらも、その手間にある大きな △ マークです。
△ マークは中心よりもやや右手側に位置しています。この配置は後述する「 ライトバリュー 」表示を左手側に収めるのに必要な位置になっています。
- 指標の左手側の青色の突起はセルフタイマーのセットレバー。V の位置でセット。
- 赤色の右手側の突起はシンクロ接点の切り替えレバー。画像では X 接点の位置にあります。下に降ろすと M 接点。
〈 minolta A3 〉のフォーカスリング
- ローレット加工による滑り止めと白文字の距離表示がある部分がフォーカスリング。
- 本体側のメッキ地の立ち上がりに黒文字で並ぶのが被写界深度目盛り。
距離合わせの指標としては、鏡筒の本体側にある被写界深度目盛りの中心線がその位置にありますが、小さく目立たないものです。
フォーカスリングの距離表示には指標と合致させる目盛りがなく、正確な位置合わせをする事は出来ません。
被写界深度目盛りの中心線は、シャッター速度と絞りの共通指標である △ マークの中心と一致しています。
△ マークの底辺に距離表示を合わせる操作によって、△ マークを距離表示の指標として用いる事が出来ます。
暗い場所などではこちらの方が見やすく、連動距離計の補助的なものとして十分に実用的です。
〈 minolta A3 〉の ライトバリュー 表示
( 鏡筒を上から見たところ )
- ライトバリューの表示は、シャッター速度リングの速度表示と同じ列に赤文字で記されています。
- となり合う絞りリングには、左手側に赤い線でライトバリュー( LV )の指標が記されています。
〈 ライトバリュー : Light Value( LV )〉 の表示は、シャッター速度リングの左手側に記されています。
右手側からシャッター速度の設定値が B 、1〜 500 (1/s) の倍数系列で記された後に、「 ライトバリュー 」が 3 〜 18 までの順序数で同じ列に続けて記されています。
〈 Minolta ・A-2・ 〉 とは違い、「 ライトバリュー 」がシャッター速度と絞りの設定値にそれぞれ記されるのではなく、シャッター速度と絞りの組み合わせによる撮影設定の「 ライトバリュー 」が記されています。
〈 minolta A3 〉のライトバリュー表示
( 鏡筒を左手側の横から見たところ )
- 絞りリングの左手側の滑り止めが途切れている箇所に、ライトバリュー( LV )の指標となる線が記されています。
「 ライトバリュー: Light Value( LV )」 の指標は、黒く塗装された絞りリングに記されている赤い線 | です。
絞りリングとシャッター速度リングはとなり合っているので、双方の操作によって 「 ライトバリュー 」 の表示と指標が相互に動く事になります。
それぞれが露光時間と露光量の倍数系列になっているシャッター速度と絞りの設定値は、どちらを操作しても撮影設定の 「 ライトバリュー( LV )」 を 1( 段 )ずつ変化させる事になります。
〈 minolta A3 〉 のシャッター速度リングには、速度表示と 「 ライトバリュー 」 の表示が同じ列に並びます。
「 ライトバリュー 」 の表示があるために、シャッター速度と絞りの表示が中心より右側にズレています。
左手側に並ぶ 「 ライトバリュー 」 の表示は、側面の視野にかろうじて収まっている状態です。
そして、絞りリングの操作によって移動する指標は、最小絞りの時には側面から確認出来るギリギリの位置にまで回り込みます。
このような部分は、戦略的に販売価格を抑えるための工夫の跡とも妥協の産物とも表現できますが、〈 Minolta ・A-2・ 〉でのアップグレードがベースにある 〈 minolta A3 〉 は、前者に説得力がある基本性能を持った製品になっています。
やや右手側にある指標の位置で行うシャッター速度と絞りの操作は、慣れてしまうと中心にある事の方に違和感を覚えるほどのものです。
全体としては好意的に捉える事ができるバランスのとれたレイアウトだといえます。
〈 minolta A3 〉発売の翌年には、ファインダーとシャッター機能などを強化して基本性能の向上が図られた〈 minolta A5 〉が登場します。
詳しくは
– コラム –
の項で紹介しています
〈 minolta A3 〉 の発売当時、シャッター速度リングに記されたライトバリュー表示を、絞りリングに設けた指標で指示するタイプの製品は他にも発売されていました。
代表的なものに当時の《 理研光学工業 株式会社 》が製造して〝 日本で初めての「 ライトバリュー・システム 」カメラ 〟として 1957年に発売された 〈 Ricoh 35 DeLuxe L 〉 があります。
このカメラの鏡筒部分には、シャッター速度リングの速度表示とライトバリュー表示が上下に配置されていて、絞りリングには指標だけが記されています。
絞り表示は、絞りリングに設けられた開口部から鏡筒の内側に記されている設定値を覗かせて、絞りリングの指標によって指示させるというものです。「 ライトバリュー・システム 」 を採用している点で 〈 minolta A3 〉 とは性格の異なるカメラですが、絞りリングの工夫によって、鏡筒部分に集まっている多くの設定情報が整理されています。
Ricoh 35 DeLuxe L の操作方法を
– コラム –
の項で紹介しています
オートワイド12